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shira ai
-白藍-

ご依頼主は写真家のSさん。Sさんは写真スタジオに長年勤務されており、専務の立場で運営されています。そして今年2021年6月、Sさんと共にスタジオを支えてきた社長が引退する事となり、社長を引き継ぐ事となりました。今回はその社長へ、引退する節目に、様々な想いを込めたギフトとして花束を贈りたいとご依頼頂きました。社長についてお話を聞いている際、社長の奥様が今年の4月に帰らぬ人となったことをお話頂きました。Sさんと生前の奥様の関わりの中で感じた事を、受け取り主である社長に伝えます。

-今回、花を贈りたいと思ったのはどうしてでしょうか。

 

はい。実は、今年の4月の初めに社長の奥様がお亡くなりになりました。30年近く、癌と闘っていました。奥様とは僕も一緒に働いていた間柄でもあります。今度、社長と奥様が作った大切な会社を、自分が社長として引き継ぐことになりました。

その節目のタイミングで奥様や社長に対して伝えたい気持ちを花と一緒に贈れたらと思ったのが理由です。明確に何を伝えようとは今の時点では言葉にできませんが、聴いてもらえたらと思います。

-そうだったんですね。お悔やみの花として奥様へ贈るのではなく、社長に贈るというのは、Sさんの中でどんな思いがあるからでしょうか?

自分自身、小さいころに父親を亡くし、昨年は祖父が亡くなるという経験もしました。大切な人がいなくなる事の悲しさはもちろんありますが、それ以上に故人がどんな人生を過ごし、何を大事にし、どんな失敗を乗り越えてきたかっていう、その人の遺志を汲んで生かしていきたい気持ちが強くて。それから自分以外の残された人達に対してどうしてあげられるんだろうという気持ちもすごくあります。

残された人たちが、亡くなった人を大事に出来たと思える行動って何かなっていうのは考えていたからですかね。

だから奥様への花束というより、社長への花束が良いかな。

-そうでしたか。では奥様とSさんとの関わりの中で感じた事を、社長へ伝える事ができると良いですね。

 

はい。そういった意味合いの花束ですね。

 

-奥様と最後に会ったのはいつか覚えていますか?

 

 

最後に会ったのは1年前ですね。もう長くはないとの話があり、最後にスタッフの皆に会っておきたいとの事でスタジオまで来てくれました。痛みで中々外にも出れず、酸素ボンベをつけているような状態でした。その日、最後の夫婦での写真になるのではないかということで、

自分がご夫婦の写真を撮りました。

-Sさん自身はその時、どんな気持ちでしたか?

正直、荷が重かったです。奥様は自分にとって雲の上の存在でした。もし自分が癌だったらと置き換えて考えてみても、あんなに精神的に強くあり続ける事は出来ない。出会った事のない人でした。そうゆう人の人生最後になるかもしれない夫婦の写真を撮るのは重かったです。

何て声をかけたら良いか分からなかったですね。だからなるべく普段通りの撮影を心がけました。

シャッターを切り始めたら開き直って、一生懸命やるしかないって思いながら撮りました。

その時の撮った写真は、家族葬の際に飾られていました。それで、少し救われた気持ちになりましたかね。

-それからお会いする機会はなかったんですね?

そうですね、それ以来。

今年の4月の初めに、急に体調が悪くなったようです。コロナもあり、面会禁止の状態が続いていましたし、最後に会う事は叶わなかったです。

本当だったら意識のあるうちに何かしてあげたいと思っていたので歯痒かったですね。

それはス写真スタジオの他のスタッフも同じ気持ちで、どうしてあげたら良いだろうと模索し、

ボイスでメッセージを録音したりして、できる事を考えていました。

奥様が亡くなった後も、社長は何もしなくても大丈夫だからと声をかけてくれたのですが、それでも皆にメッセージを募り、大好きだった黄色い花を贈ったりもしました。

やっぱりその時も残された人達が少しでも救われる方法は何かなってずっと考えていましたね。

-もし奥様に今何か聞けるとしたらどんなことを聞きたいですか?

亡くなってから闘病日誌も読ませて頂く機会がありました。そこにはつい最近までご主人である社長のことがたくさん書かれていました。こうゆうところが好きとか、社長を想う言葉が並んでいたんです。そういう関係性を見ても夫婦像として学ばせてもらうことは多くて。

だから、もし聞けるとしたら夫婦でいるという事はどうゆう事なのかな?というのを改めて聞きたいですよね。

 

 

-逆に奥様に伝えたい事はありますか?

 

 

もし、天国で聞いているとしたら‥

奥様はかっこいい人でした。自分の苦労を表に出さない人です。

酸素ボンベして痩せ細っても自分のことじゃなくて人の事を気に掛ける人。

でも実は、日記に闘病の苦しみも綴っている。その姿は正直かっこいいなと思います。

そうゆう姿を見てたら、誰よりもかっこよく生きてたんだなって。

だから自分もかっこよく生きますと伝えたい。

 

自分も人のことを一生懸命考えたいし、部下がどうなっていきたいかを一緒に悩んで、

なりたい自分になっていく過程を背中で見せていきたいです。

だからかっこよく生きたい。そして優しくね。

 

それから社長の事は心配しないでほしい。

これからは楽をさせると約束したいです。

 

 

-では最後に、社長に伝えたいことはありますか?

 

言葉にするのは難しいですね。

写真家って撮っている写真を見たり、お客様とのやり取りの中で、

どういう心理状態かがある程度分かります。だから自分が自分らしくいることで、

伝われば良いかなと思っています。

 

今になって言えるけど、母親や、亡くなった父親を尊敬しています。思いやりを持って接してくれ、育ててくれたから。だから自分のバックボーンも大切にして、いろんな人の苦労や楽しみを自分に落とし込みながら、一番はスタッフと家族を幸せにする。

その結果が社長を幸せにできると思っています。

 

 

 

florist message

「白藍」

白藍とは、藍染の中で最も薄い色です。黄色みを帯びた淡い水色で、白黄藍と呼ばれる古くからある色です。

ご夫婦最後の写真を撮る役目だったSさんにしか見えない夫婦像があるように感じました。そんな役目を担ったSさんだからこそ奥様へ聞きたかった事、夫婦とは何かという問い。ご本人からお聞きすることは叶いませんが、きっと奥様は出会った頃の気持ちのままをその問いの答えにする気がしました。花束のメインにはこの時期から咲き始める白く透き通ったセルリアを使用しています。闘病日記にも記されていたご主人への気持ちをそのまま形にしたような花です。

白藍の色をしたセルリアの別名は「ブラッシングブライト」。

頬を染めた花嫁という意味合いです。

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